リウマチ・膠原病疾患

 膠原病は、本来細菌やウイルスなどの外敵を排除するための免疫反応が、自己に対して作用してしまう「自己免疫性疾患」、関節や筋、腱などの運動器に疼痛・こわばりを生じる「リウマチ性疾患」、全身の臓器の実質細胞(例えば肺でいうと肺胞上皮細胞)の間を埋めて支持する役割を担う結合組織に炎症をきたす「結合組織疾患」の3つの顔を併せ持つ病気です。

 膠原病内科で診療している主な疾患には、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、全身性エリテマトーデス、炎症性筋疾患(主に多発性筋炎/皮膚筋炎)、強皮症、シェーグレン症候群、血管炎症候群、ベーチェット病、成人スティル病、脊椎関節炎などがあり、現在当科の外来患者状況は下記のとおりとなっています。
関節リウマチ
 関節リウマチは、関節を病変の主座とする膠原病であり、疼痛と共に発赤、熱感、腫れを伴う「関節炎」が持続すれば関節破壊・変形が進行し、身体機能障害と生活の質の低下をもたらすため、早期診断早期治療が重要です。

 近年、関節リウマチにおいては、様々な基礎・臨床研究に基づく治療法の開発が進んだ結果、疾患の病態が徐々に明らかにされ、後述するメトトレキサートや生物学的製剤、JAK阻害薬などの導入により、多くの患者さんにおいて病気の寛解状態を維持できるようになりました。2020年の当科の関節リウマチ診療状況を示します。
関節超音波検査
 関節炎を客観的に評価できる低侵襲な検査として、関節超音波検査を行っています。関節リウマチ診断の補助になるだけではなく、治療効果の判定、治療変更の判断にも有用であり、当科でも積極的に行っています。

右2指関節、伸筋腱の腱鞘滑膜炎エコー所見 (オレンジ色の部分は血流を表す)
 
治療導入前              治療導入後
ガイドラインに基づいた膠原病診療
 関節リウマチ以外の膠原病についても、質の高い臨床研究が継続的に実施され、ここ数年の間に多くの疾患の診療ガイドラインが作成されました。

 当科では、ガイドラインに準じた診療をベースにしながら、個々の患者さんに応じた最適な治療法について、カンファレンスを通じて議論を尽くすよう心がけています。一方で、膠原病は病態の詳細についてまだまだ不明な点が多く、実際の臨床ではガイドラインや既存の論文報告だけでは解決できない問題に遭遇します。私たちは、このような場合でもベストな選択肢を提案できるよう考え続け、また、治療方針の決定の際には、患者の皆様によく説明し、よく話し合って決めるようにしています。
膠原病の治療薬
 膠原病治療の基本は薬物療法になります。残念ながら、現状では治癒は困難であるため、疾患の「寛解(症状や臓器障害がない、あるいはあってもごく軽度の状態)」達成、維持を治療目標とし、副作用に十分注意しながら以下のような治療薬を使用しています。

抗リウマチ薬
 一般的に、関節リウマチに対して用いられ、疾患修飾作用を持つ(対症療法ではない)薬物のことを指します。免疫抑制薬と免疫調整薬があり、免疫抑制薬の代表的薬物としてメトトレキサート(MTX)があります。MTXは関節リウマチ治療の中心的薬物、「アンカードラッグ」として位置づけられ、特に使用できない理由がなければ第一選択薬となります。
 MTXは構造が葉酸に類似し、葉酸代謝酵素阻害により細胞増殖を抑えることで薬効を発揮します。また、細胞内外のアデノシンを増加させ、抗炎症作用ももたらします。開始後、早ければ2週間、遅くとも1〜2ヵ月頃より徐々に関節症状が良くなります。副作用として、口内炎、悪心・食欲不振、肝機能障害などがみられることがありますが、葉酸を併用することでコントロール可能な場合が多いです。それ以外にも、骨髄障害、腎障害、肺障害、リンパ増殖性疾患などに注意が必要です。
 免疫調整薬は、正常の免疫能にはそれほど影響せず、異常な免疫機能を正常化に調整する薬剤です。下表のような薬剤がありますが、いずれも抗リウマチ作用は弱く、MTXの代替もしくは併用薬として用いられます。


生物学的製剤
 生物学的製剤とは、生物から産生されるタンパク質などの物質をもとに作製された薬剤の総称です。膠原病治療で使用される主なものとしては、抗体医薬品、及び免疫グロブリン製剤になります。抗体医薬品は、TNF-αやIL-6、IL-17などのサイトカインをはじめとした疾患関連分子に特異的に結合する抗体を遺伝子組換え技術等を応用して作製し、医薬品としたものです。多くの薬剤は関節リウマチを対象として投与しますが、最近では、全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎、成人スティル病、ベーチェット病、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎に対しても応用されています。治療効果に優れていますが、薬価が高額であることや感染症など副作用リスクが上がることなどから、抗リウマチ薬や免疫抑制剤でコントロールがつかない場合に選択されます。下表のような薬剤があります。



JAK阻害薬
 JAK(Janus kinase)は特に免疫細胞や造血細胞を中心に発現し、サイトカイン受容体からの細胞内シグナル伝達を担うチロシンキナーゼです。ヒトの細胞にはJAK1, JAK2, JAK3, TYK2の4種類のJAKが存在し、例えばIL-2, 4, 7, 9, 15, 21はJAK1とJAK3を、IL-6はJAK2とTYK2の組み合わせを利用しています。

 JAK阻害薬は関節リウマチ病態に関連する複数のサイトカインを阻害して有効性を発揮します。抗リウマチ薬で効果不十分な場合に適応となります。生物学的製剤とは異なり、低分子化合物であるため経口投与可能、保管に際し冷蔵が不要、半減期が短く副作用発現による中止時に有利といった特徴を持ちます。一方で、副作用として感染症の中でも特に帯状疱疹の発生に注意が必要であり、また、心血管リスク、悪性腫瘍リスクなど長期安全性が十分に確立されていないことも考慮して使用します。

【当科での試み】
 加齢や疾患により筋肉量が減少することで、全身の筋力低下が起こること、または、身体機能の低下が起こることを「サルコペニア」といいます。サルコペニアは、転倒、骨折、身体機能障害のリスクを高める骨格筋疾患であると考えられています。関節リウマチでは、疼痛や関節可動域の制限により不活動になりやすく、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの影響やステロイドの内服によりサルコペニアの発症リスクが高くなります。当科では、代謝栄養学分野と共同で関節リウマチのサルコペニアに対するJAK阻害薬の効果に注目し、臨床研究を行っています。
J Med Invest 65(3,4):166-170, 2018)
ステロイド
 ステロイドとは、ステロイド骨格を有する有機化合物の総称であり、生体内でも合成されており、コレステロール、鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド、性ステロイドが含まれます。このうち、膠原病の治療では、抗炎症・免疫抑制作用を期待して(合成)糖質コルチコイドが使用されます。治療薬としてのステロイドにはいくつかの種類がありますが、最も長く使用されてきたプレドニゾロン(prednisolone:PSL)を主に用います。

 多くの膠原病において、その病態に応じた投与量(表1)でステロイド治療を行います。過剰な炎症を抑える作用が強く、早い効果が期待できる反面、多彩な副作用を生じ得ます(表2)。したがって、病気の最初に必要な量をしっかり使って抑え、その後は副作用を最小限にできるように投与量を漸減していく方法がとられます。

 また、治療開始後にはニューモシスチス(真菌の一種)による肺炎予防としてST合剤、ステロイド骨粗鬆症に対してビスホスフォネート製剤やビタミンD製剤、消化性潰瘍予防にプロトンポンプ阻害薬(胃薬)などを併用します。ステロイドは大事なお薬で、ある程度の期間服用した後で急に中断すると、副腎不全といって体に大きな負担がかかり危険ですので、処方箋どおりに服用することが重要です。


免疫抑制剤
 免疫反応を担う細胞の働きやその細胞の増殖などを抑え免疫抑制作用をあらわす薬です。本剤は、リンパ球に作用しT細胞からのサイトカイン産生を抑制したり、リンパ球の増殖に必要となる核酸(DNAなど)の合成を抑えたりすることで作用します。ステロイド抵抗性を示す膠原病の病態に応じてステロイドと併用して用いられます。副作用として感染症に注意を要しますが、ステロイドのような多彩な副作用がないため、ステロイド減量困難な場合にステロイド投与量を減らす目的でも使用されます。

膠原病関連間質性肺疾患
 膠原病では疾患を問わず呼吸器疾患の合併頻度が高く、中でも間質性肺疾患は予後に影響を及ぼし得る重要な病態です。上記の諸薬剤による治療に加えて、最近すでに特発性肺線維症に対して承認済のニンテダニブという抗線維化薬が、進行性線維化を伴う膠原病関連間質性肺疾患にも適応可能となりました。しかしながら、ステロイド、免疫抑制剤、抗リウマチ薬、生物学的製剤、JAK阻害薬、抗線維化薬をどのような症例に、どの組み合わせで使用するのがベストであるかについてはまだ明らかではありませんし、さらなる有効性を示す新規治療薬の開発も望まれています。当科では、呼吸器・膠原病内科であるという特色を生かし、間質性肺疾患のさらなる理解が進むように診療に取り組んでいます。

最後に
 膠原病は、症状や臓器障害が全身に及ぶことがあります。特に脳・神経症状、間質性肺疾患、肺高血圧症、自己免疫性血小板減少症、強皮症に伴う消化管運動障害や腎障害、シェーグレン症候群に伴う涙腺・唾液腺障害、各種膠原病に随伴するレイノー現象などは、依然として治療法の確立が不十分な難治性病態のままです。

 私たちは、このような難治性病態を含め、臨床的諸課題の解決につなげられるようなリサーチマインド、また、全身を総合的に診られる知識・スキルを常に磨きつつ、あらゆる診療科と密な連携を取りながら日々診療に取り組んでいます。患者の皆様とも十分話し合い、少しでも病気の克服に近づくことができるよう全力でサポートさせていただきます。

徳島大学大学院医歯薬学研究部呼吸器・膠原病内科学分野
〒770-8503徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15
TEL:088-633-7127 FAX:088-633-2134
Copyright Department of Respiratory Medicine and Rheumatology
Graduate School of Biomedical Sciences
Tokushima University