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肺がんは、文字通り肺にできるがんですが、毎年55千人もの方が肺がんと診断されています。また、がんで亡くなる方の6人に1人は、肺がんであるというのが現状です。

肺がんの原因としては、皆さんご存知のようにたばこが最も重要です。たばこの煙の中には、ニコチン、タール、ベンツピレンなど200種類以上の有害物質が含まれており、肺がんと関係があると考えられています。たばこを吸わない人の肺は図のようにきれいなのですが、ヘビースモーカーのひとの肺はこのように真っ黒です。

現在、肺がん患者さんのなかで喫煙者の割合は、男性で70%、女性で26%と高く、たばこを吸っている人は肺がんになりやすいといえます。

また、たばこは、吸っている本人だけではなく、周りのヒトにも害を及ぼします。夫が120本以上たばこを吸っている場合妻が肺がんで死亡する確率は19高くなるといわれており、周りの人のためにも、たばこはよくありません。

肺がん診療のトピックス

近年「がんの個性に合わせた治療」が注目されていますが、肺がんの個性とはどういうものでしょうか?肺がんの個性とは、組織型、広がり、それに患者さんの全身状態であるといえます。これらを総合的に判断して治療法を決めるわけです。

肺がんは、小細胞がん非小細胞癌2種類に大きく分けられます。小細胞がんは、文字通り細胞の大きさが小さいがんですが、肺がんのなかでも非常に個性的な性格をもつもので、転移しやすいけれども抗癌剤が効きやすいため、治療は抗癌剤が主体になります。頻度も少なく全体の20%程度です。残りの80%が、小細胞がん以外という意味で非小細胞がんと呼ばれます。

非小細胞癌はさらに腺癌扁平上皮がん大細胞がんに細分されますが、いずれもどちらかというと抗癌剤が効きにくいという特徴があり、広がりによって適した治療を行います。

以下、頻度の多い非小細胞癌の治療についてご紹介いたします。

まず、病気が肺の1箇所のみ、もしくは肺門という肺の付け根にリンパ節転移がある場合(I期とII期)、手術をします。手術は、わき腹を大きく切ってがんを切除するわけですが、肺の局所の治療としては最も確実な治療法です。また、ごく早期の小さながんには、内視鏡を使った負担の少ない手術(胸腔鏡下肺切除術)も行われるようになってきています。

次に、もう少し病期が進んだ状態、例えば肺と肺の間の縦隔といわれる部分までリンパ節転移ができてしまった局所進行期(III期)の場合、放射線治療をします。放射線治療は、図のような装置を使ってがんのところだけに放射線をあてて、がん細胞を死滅させます。毎日少しずつ放射線をあてるので、治療にだいたい6週間かかります。効果を上げるために抗癌剤と一緒に組み合わせて行うこともよくあります。右のレントゲン写真は50歳代の女性の患者さんのものですが、まるで囲った部分に大きながんがありましたが、放射線と抗癌剤を併用してがんが小さくなりました。

肺以外の臓器に転移がある進行期(IV)の場合ですが、抗癌剤の治療をします。抗癌剤の種類はたくさんありますが、点滴として使うものがほとんどです。抗癌剤は細胞分裂がさかんながん細胞に取り込まれることによってがん細胞を殺します。だいたい1ヶ月が1セットで、効果があれば繰り返し行います。非小細胞肺がんに対しては効きにくいといいましたが、最近は抗癌剤も進歩していて延命効果があります。右下のレントゲン写真は70歳歳代の女性の患者さんのものですが、2回の治療で2ヵ月後にはがんが小さくなっています。

 

肺がんにおいては、ここ数年で新しい治療法が登場しました。

それが分子標的治療です。分子標的治療という言葉は聴きなれないかもしれませんが、これは、がんが広がっていくのに必要な物質、分子だけを標的にした薬です。

その代表がゲフィチニブ(イレッサ)です。イレッサは肺がんに対するはじめての分子標的薬でこのようなマーブルチョコレートみたいな飲み薬です。手術不能または再発の肺がんに2002年から使えるようになりました。

この薬の標的は、上皮成長因子受容体というもので、肺がん細胞の表面に出ているのですが、ここから癌細胞が分裂するのに必要な刺激がはいってきます。イレッサはその刺激をブロック(通行止めに)することで、癌細胞が増えるのを抑えます。イレッサは、肺がん患者さんの20%にがんが半分以下に縮小するという効果が得られます。また、50%のヒトで何らかの症状の改善がみられます。近年、海外で行われた臨床試験では延命効果が証明されませんでしたので、その使用に際しては代わりの治療法と比較してどちらがよいか医師と充分相談する必要があります。

 

肺がんは、現在最も患者さんが多く、治りにくいがんといわれていますが、ここ数年で治療法が進んでおりますので、肺がんの患者さんは是非希望を持って我々のところに相談に来ていただきたいと思います。

イレッサは、効く人には劇的に効く場合が多いのですが、副作用はどうでしょうか。

いくらがんに標的を絞っているといっても、やはり副作用は出てしまいます。頻度が多いものは皮疹(にきび)下痢、それから肝臓の障害です。しかし、これらは軽いものが多く、イレッサを飲むのをやめればほとんどの場合回復します。また、抗癌剤で必ず出る骨髄毒性がないのもイレッサのいいところです。

ところが、注意しなければならないのが肺障害です。約6%の患者さんに発症し、致命的になることがありますので、この薬の治療は肺がんの治療経験を積んだ医師のもとで受ける必要があります。

イレッサはどのような肺がん患者に効きやすいのでしょうか?それは、日本人、女性、非小細胞癌のなかの腺癌という組織型、それからたばこを吸わない患者さんです。レントゲン写真はこれはそれらの条件を全て満たした70歳代の女性のものです。広い範囲に広がっていた肺腺癌の影が、イレッサの治療を続けることにより一ヵ月後にはほとんど消えました。薬を飲み続けることでこの効果は2年9ヶ月続きました。

このように、イレッサは劇的な効果が期待できるが致死的な副作用が起きる可能性もある薬剤です。そこで、徳島大学ではイレッサの効果を予測する検査法の開発に取り組んでいます。具体的には、治療の前にがん組織を取らしてもらい、その癌細胞の個性を遺伝子発現で調べます。イレッサについてはイレッサが効く遺伝子発現のパターンと効かないパターンがわかってきましたので、効くパターンの患者さんにはイレッサで治療をする。効かないパターンの人には他の治療をするという、がんの個性に合わせた治療を目指しています。徳島大学ではイレッサに限らず新しい抗がん剤についても効果を予測する検査を開発するために研究しています。